Home > コラム > お金と住まいのキホン > 第4回 マンションの長寿命化と修繕費用の削減

第4回
マンションの長寿命化と修繕費用の削減

「賃貸→マンション→戸建て」という住宅すごろくのあがりを目指した時代も20世紀にはありましたが、今では分譲マンションを終(つい)の棲家(すみか)と考える人が多数派になっています。長く住み続けるためには、きめ細かなメンテナンスが必要です。費用対効果も考えた、マンション修繕の現状を見てみましょう。

意外と新しい定期修繕の考え方

街を歩いていて、時折、メッシュシートで全体が覆われたマンションを見かけることがあります。仮設足場を架けて、外壁部分などのメンテナンスする大規模修繕工事です。築10年を過ぎるころから、管理組合の中ではどのようにこうした工事を行うか、管理会社も交えて話し合いが始まります。

マンションの規模や形態にもよりますが、戸あたりの負担が100万から200万円近くかかるこの工事のために、マンションオーナーは管理費と共に修繕積立金を毎月支払っているわけです。

いまでこそ定期的に大規模修繕を行うという考えは浸透していますが、大規模修繕計画の作成が管理組合の業務となったのは1997年とほんの20年ほど前のこと。それ以前に建てられたマンションの中には、大規模修繕の記録がないようなところも珍しくないのです。

国土交通省が大規模修繕の目安として、12年程度の周期の「定周期保全」をマニュアルで提示して以来、「12年」という数字が浸透していきました。実際、この周期で仮設足場を設けて大規模修繕を繰り返していくのは理想的です。
しかし、建設工事費の高騰は大規模修繕にも影響を与えています。第1回目の大規模修繕から積立金では工事費用が補いきれないため、借り入れや一時金徴収の例が出てきました。12年ごとの大規模修繕は本当に必要なのか。全国の管理組合理事会から疑問が投げかけられるようになっていったのです。

保全周期の長期化に踏み切る動き

先の定周期保全と対をなす考え方が「状態監視(経過観察)保全」です。経過年数にこだわらず、専門家が必要としたときに修繕を行います。
実際には、大規模修繕工事の対象を検討する際に、まだ修繕の必要がない部分は先送りにする形で現実の修繕工事は進められています。

鉄筋コンクリート造のマンションにとって、雨がかり部分への対応が生命線となります。躯体部分のコンクリートに浸水して中性化が進むと、マンションの寿命は大幅に低下してしまうからです。そうならないよう、屋上やベランダには防水加工が施され、毀損した外壁タイルを交換し、シーリング材による防水処置が行われます。

新築マンションを購入した際、大規模修繕工事に関する資料もオーナーに渡されています。築30年までを見越した修繕計画に基づき、毎月の修繕積立金の額が決められるのが一般的でしょう。12年周期の考え方では、30年の間に2回の大規模修繕工事が行われます。
先述したように、最近では1回目の工事から資金不足となりかねないため、この点を改善しようという動きが出てきました。

5年ほど前から、野村不動産パートナーズの内部では、マンションのライフサイクルコストの低減が実現できないか、という検討が進められていました。選択肢は、修繕の単価を下げるか、回数を減らすかのいずれかになります。

野村不動産パートナーズは、既存の工法や材料にひと手間かけることで長寿命化を図り、大規模修繕の回数を減らす選択をしました。2016年に最初の竣工例が出た[re:Premium](リ・プレミアム)の導入です。

より高耐久の部材を使うこともあり、工事費全体を均して5~10%ほどは上がりますが、保証期間が5年延びるため、修繕サイクルは16~18年程度になります。メッシュシートと仮設足場の頻度が減るということは、生活の質を保つうえでも歓迎されています。

長寿命化で負担も100万円以上減少へ

[re:Premium]は現状ではプラウドシリーズのみが対象となっています。グループ会社の野村不動産が分譲しますから、躯体の様子などがよく分かるという安心感があるからです。2016年の1件から始まって、2018年までで14件。2019年には6件ほどが着工予定となっています。
昨年夏には、野村不動産グループとして1回目の大規模修繕から周期を16~18 年へ延長する「アトラクティブ30」という方針が打ち出されています。

長周期化には2つの課題があります。
1つは、実際に施工する協力会社との関係です。周期が伸びれば受注機会が減りますから、一般に嫌がるものですが、それに加えて保証期間を5年間延ばすことのリスクもあるからです。当初は5つの協力会社から始まり、現在では7社となりましたが、さらに大々的な展開ができるよう、引き続き体制整備が必要です。

もう1つの課題は、管理組合の説得です。目先のことでいえば、5~10%程度とはいえ負担が増えます。そこで工夫されたのが、より長期間を見越した修繕計画の策定です。先ほど、新築入居時には30年間の修繕計画が渡されると言いましたが、これを2倍の60年まで延ばして、総修繕費用を算出して示します。築10年のマンションなら、さらに50年先を「見える化」するということです。

実は、築40年前後で給排水管の交換という多額の費用を伴う修繕が必要となります。30年計画では範囲外ですし、12年周期でも3回目の後なので、この点には触れられてきませんでした。60年間暮らし続けるためには、避けて通れない点なのです。

物件にもよりますが、12年周期の大規模修繕を繰り返す場合と比較すると、170戸弱のマンションで戸当たりの負担額が60年間で総額200万円以上減少するという試算結果も出ています。「長い目で見ればお得」という仕組みを取り入れることで、安心して暮らすことができるならば、誰にとっても幸せなことではないでしょうか。

協力/仙田浩之(野村不動産パートナーズ 建築事業本部 マンションリニューアル一部長)
イラスト/大和涼子
ダイヤモンド・セレクト編集部(ダイヤモンド社)