Home > コラム > お金と住まいのキホン > 第11回 消費増税直後の今だから考えたい「賢いマンションの買い方」

第11回
消費増税直後の今だから考えたい
「賢いマンションの買い方」

2019年10月1日、消費税が2%増税されて10%となりました。不動産も、事業者から購入する場合、建物部分に消費税が課税されますので、その影響は気になるところです。だからこそ、これからマンションを買う人は、増税直後の今から賢い購入方法を知っておきたいもの。住宅ジャーナリストの櫻井幸雄氏に、過去2回の増税時の状況を振り返りながら、10%消費税時代の賢いマンション購入の秘訣を聞きました。

「駆け込み」がなかった今回の消費増税

増税後の今からマンションの購入を考える人は、税負担のアップももちろん、「増税前の駆け込み需要で、良い物件が軒並み売れてしまったのでは」という懸念を持っているかもしれません。しかし、結論から言うと、1997年4月の3%から5%への増税、2014年4月の8%への増税前とは異なり、19年10月の増税前には駆け込みによる需要増は生じませんでした。

首都圏を例に取ると、1994年から2005年までは毎年8万戸台、うち2000年初頭には9万戸の新築マンションが供給されていました。ですが、最初の増税の年である97年は、96年に駆け込み需要が発生したあおりで、前年比15%減の約7万戸まで供給戸数が落ち込みました。再び8万戸台を回復するのは、2年後の99年のことです。

2008年のリーマンショック後、新築マンションの大量供給期は過ぎ、09年と13年を除いて、15年までは4万戸台で推移します。13年は、2度目の増税が行われる前年ということで需要増が見込まれ、12年比24%増の約5万6000戸が供給されました。増税のあった14年は、13年比20%減の4万戸台に戻っています。

では、今年10月の増税に関してはどうだったか。昨年18年の新築マンション年間供給戸数は3万7000戸でした。19年に入ってからも、1~9月で約2万戸の供給にとどまっており(以上、不動産経済研究所調べ)、駆け込み需要を見込んだ供給増は見られません。

なぜ、「駆け込み」は起こらなかったのか

過去2度の消費増税前には新築マンションの駆け込み需要があったにもかかわらず、なぜ今回はなかったのか。櫻井氏は、次の5つを主な要因として挙げます。

①政府による“あおり売り禁止”の喚起

②住宅ローン減税の3年間延長ほか、優遇策の拡充

③都心好立地を中心とする新築マンション価格の高騰

④東京五輪後にマンション価格が大幅に下がるという“都市伝説”

⑤優良な中古マンションの流通拡大と消費者の意識変化

今年6月、内閣官房、内閣府、公正取引委員会、消費者庁、財務省、経済産業省、中小企業庁の連名で、増税前に「今だけお得」といったセールスをしないよう、企業に対して注意が喚起されました(上記①)。櫻井氏によれば、不動産業界がこれを順守したことが、今回駆け込みが起こらなかった大きな要因の一つだったようです。

また、前回増税時の2014年に、一般住宅の場合、控除額が10年間で最大200万円から400万円に大きく拡大された住宅ローン減税(控除)制度ですが、今回はさらに、控除期間が3年延長されて13年となりました(上記②)。対象は、消費税10%適用の住宅を取得し、2019年10月1日から20年12月31日までに入居する人です。他にも、住宅資金贈与税の非課税枠の拡大など、増税分をある程度還元する税制上の優遇策が取られています。

とはいえ、いくら税の優遇があっても、物件の価格が上がり過ぎていて、なかなか新築には手が出せないというのが、消費者の本音ではないでしょうか(上記③)。増税直前の今年上半期(4~9月)、首都圏の新築マンションの平均価格は6000万円を超えました。月間平均契約率は約65%です。6000万円といえば、バブル期の1990年と同じ水準です。なお、2014年の平均価格は約5000万円、同契約率は約75%でした(不動産経済研究所調べ)。

また、消費者の間では「2020年の東京五輪の後、新築マンションの価格が下がる」という期待から、今は購入を待つ動きがあるとも言われますが(上記④)、櫻井氏はこれを「都市伝説的な期待感」として、五輪後も相場が大きく下がることはないと指摘します。

となれば、中古マンションに消費者の目が向くのも当然です(上記⑤)。現在、首都圏では年間で約3万7000戸の中古マンションが成約していて(東日本不動産流通機構調べ)、これは先ほどの2018年の新築マンション供給戸数とほぼ同じです。好立地、高仕様ながら割安感のある築10~20年程度の物件も出回っており、以前と比べて消費者の中古への抵抗感が小さくなっているのです。

増税直後ならではの条件を生かして購入する

では、増税後の今から新築マンションを賢く購入するには、どうすればよいのでしょうか。 櫻井氏は、駆け込み需要がなかったからこそ、今は物件の在庫が豊富であること、かつ、住宅ローン減税の延長適用を受けるには、2020年12月31日までの入居が条件となっていることなどを踏まえると、「これから半年が購入の好機」とアドバイスします。

新築マンションの場合、契約後、竣工、引き渡しを経て実際に入居するまでに1年程度を要することはよくあります。それから逆算すれば、物件を探し始める時期はこれからの半年間がベストというわけです。

価格面では、都心の駅に近い物件なら70平方メートルで7000万円以上の物件も珍しくない昨今ですが、これが「近郊外」や「郊外」で、都心まで1時間程度で通えるエリアとなると、同じような広さや住戸の仕様で4000万~5000万円台で手に入る物件もあります。

櫻井氏によれば、東京の場合は西武新宿線沿線、千葉では総武線沿線以外のエリア、埼玉では京浜東北線沿線以外のエリアには要注目。かつ、資産性で見た時に有利な「駅から7分」までの立地はどうしても割高となるので、自身の居住用なら「駅から8分以上」の物件をねらってみるのも購入価格を抑える方法の一つとのことです。

イラスト/大和涼子
ダイヤモンド・セレクト編集部(ダイヤモンド社)