LIFE WITH PHOTOGRAPHS

念願の自邸を手に入れ、その空間を美しく演出したい。
その選択肢のひとつは「アートで飾る」こと。
けれども、日本ではまだまだ「アート」はハードルが高いという先入観がつきまといます。
「アートのある暮らし」をしてみたいけど、どうすればいいかわからない。
そんな人にとって、入門編としてふさわしいのが「アート写真」です。
現代的なモチーフやタッチが多いので、マンションにもぴったり。
ではどうすれば、満足のいく写真を手に入れて、住空間を彩ることができるのか——
初心者が知っておくべき、アートフォトの買い方を、アート写真の専門ギャラリー「IMA gallery」の土川一志さんに指南してもらいました。

アート写真で完成する理想の自邸

Text:Miki Ozawa Photos:Yasuyuki Takagi
小沢美樹=文 高木康行=写真

部屋に飾る写真はどこで見つけるべきか。

―アートフォトを買いたいと思ったとき、初心者が真っ先に思いつくのが「どこで買えばいいのだろう?」ということです。なんとなくギャラリーは近寄りがたいし、そもそもどんなギャラリーがあるのもわからないという声もよく聞くのですが、実際にどうやって探せばいいですか?

なるべく多くのギャラリーを回ってみるといいですね。写真はファインアートの中でもジャンルが幅広い。ジャーナリズムから、コンセプチュアルなものまでさまざまなので、まずはたくさん見て、自分の好みの作品の傾向や、好きな作家を知ることがお気に入りの1枚に出会える近道です。

アートフェアに行くのもおすすめです。たくさんのギャラリーが出展していますので一度に見られますし、それぞれ趣向を凝らしてディスプレイしているので、写真の飾り方のヒントを得るのにも役立ちます。
そうやって、いろいろな作品を観て、自分の好みがわかってきたら好きな写真が見つかったギャラリーに問い合わせてみるといいでしょう」

―ギャラリー訪問の前に知っておくべきことは?

「ギャラリーは敷居が高くて、怖いイメージがあるかもしれないですが、そんなことは全然ありません。作家や作品の背景の話などを通して、写真をより深く知るきっかけを作ってくれますよ。事前にメールや電話をしてアポを取っておくとさらにいい。あらかじめ好みや用途を教えていただくことで、ギャラリー側でも作品を準備しておくことができるし、プラスαの提案もできます。
その際、絶対に買わなければいけないのでは、なんて思う必要なんて全くないのでご安心を。納得がいくものに出会えたときに手に入れていただければいいのです。ネットで知ることができる情報には限界があります。ギャラリーに来ていただければ、場合によっては、作家が在廊していて、直接話ができるかもしれません。特に、展覧会のオープニングレセプションには、作家が必ずいます。是非一度、足を運んでみてください」

―ギャラリー選びをするにあたって、好きな作品以外の基準はありますか?

「ギャラリーには、プライマリー、セカンダリーという2種類があります。違いは、プライマリーギャラリーはいわば、“産地直送”。写真家と直接つながりをもち、買い手に届けます。ここIMA galleryも前者です。一方のセカンダリーは、オークションに代表されるように、一度世に出て、人の手に渡った作品を扱うマーケット。作家と直接つながりのある“産地直送”のプライマリーの方が、特に初心者の入り口としてはいいと思います」

写真を買う時に知っておきたい基礎知識。

―初めてのアートフォト。やはり気になるのは値段。どれくらいの予算を想定すればいいのでしょうか?

「例えばIMA galleryでは10万円以下の作品も扱っていますし、50万、100万円超のものもあります。予算が潤沢にあるのに越したことはないですが、その場合のメリットは選択肢の幅が広いことくらい。また、値段の高い作品が、必ずしもその人にとって良い作品とは限りません。今の新進気鋭の作家が10年後にスーパースターになっているかもしれない。同時代の写真家の作品を買うことの楽しみはそういう点にもあります。一緒に時を経ることで、その写真家の変化を見ることができるし、自分も変わって行きます。時が経って、誰かとその写真を見た時に、「あなたってこうだったの」などと話題を提供してくれますよ」

―写真には、エディションという言葉をよく聞きますが、何のためのものなのでしょう?

写真にはオリジナルがありますが、当然ながらプリントができます。作家や作品によって、サイズによって、1枚のみ、3枚のみ、5枚までなどといったプリント枚数のエディションコントロールをかける場合と、枚数を制限しないオープンエディションのものがありますが、それぞれ目的や用途によって異なります。

気に入ったら買わないと、すぐになくなってしまうということもしばしばあります。その場で即決できなかったり、予算オーバーなどの場合は、ギャラリーに相談すれば、ある程度の期間リザーブをすることもできるので、すぐに買えなかったとしても、好きな作品に出会ったら何かアクションを起こした方がいいですね。

―絵画や彫刻のように、1点ものじゃないと価値がないのではないでしょうか。

「そんなことはありません。そのためにもエディションを限って管理しているのが、写真作品なのです。逆に、自分の持ってる作品とまったく同じものが、美術館に収蔵されている、なんてこともあるんです」

―プリントの種類によって写真の価値が異なることもあるんでしょうか?

プリントには、まず大きく分けるとカラーとモノクロがあります。モノクロにはゼラチンシルバー、プラチナプリントがあり、ゼラチンシルバーはいわゆるみなさんのよく知っている銀塩写真です。プラチナプリントは高価でちょっとレアな写真技法なのですが、500年という長い耐久性と豊かな諧調が特徴です。紙の質感そのままにマットで、モノクロ写真の美しさが最大限に生かされ、値段は高いけどクオリティは最高峰です。
また、モノクロ、カラー作品ともに、最近ではインクジェットプリントのものも増えています。技術が飛躍的に進み、写真としてのクオリティも間違いありません。サイズもかなり大きなものまで可能。さらに、最近のアート写真は複数の技法をハイブリットで掛け合わせる作品も多くなっているので、コンピュータを駆使したものも数多いです」

―写真の額装や、飾り方はどうすればいいでしょうか?

「額装についてのご相談も多いですね。壁のサイズや色、素材などを伺って、白、黒、木製、スチール製、アクリルなどどんな額装がいいかをご提案します。色や素材だけでなく、フレームの素材や厚み、ガラスの有無、マットの色など細部までご相談に乗ります。一方で、簡単に済ませたいという場合には、既成のフレームをご提案して納品というスタイルも取れます。
パネル貼りもおすすめですよ。新しく購入したマンションなどに、軽いので壁にも負担がかからずインストールしやすいし、厚みがあるのでキャビネットの上や床に直接置いてもいい。扱いやすいのが魅力で、部屋のインテリアとして気軽に飾ることができます。
実際に自宅に写真がインストールされたときの感激は、何にも代え難いもの。その瞬間のお手伝いをするのも、ギャラリーの仕事の醍醐味のひとつです」

BEFORE/AFTER

購入したばかりの家にアートフォトをプラス!

ようやく手に入れた自分の城。真新しい空間にインテリアも揃え、最後の仕上げとなるのが部屋に個性を与えるアート。
リビング、ダイニング、ベッドルーム、それぞれの空間に合わせて、気鋭の写真家たちの作品を選び、壁に飾ってみる。すると、部屋にそして住まい全体にそれまでになかった景色が創り出された。新たに生まれたその景色は、そこに住む人の生活に彩りとリズムを与えてくれる。

© Moon Light , Yoshinori Mizutani/ courtesy of IMA gallery

BEFORE

大きく窓が取られ、光が降り注ぐリビングルームは、グレーを基調としたインテリアで揃えられ、クールで都会的なイメージ。ソファ奥の壁面が大きく空いているので、部屋の「顔」となる作品を飾れば、印象は大きく変わるはず。

AFTER

白い壁に、水谷吉法の松を被写体にした作品<MOON LIGHT>シリーズ2作品が飾られたことで、奥行きとスケール感が飛躍的にアップ。日本画を思わせる繊細さと大胆さを併せ持つ写真が現代的な住空間に溶け込み、不思議な調和を生み出している。窓に挟まれた壁に自然を被写体とした写真が飾られることで、まるでもうひとつの窓が開いたかのよう。

© An incomplete Dictionary of Show Birds, Luke Stephenson

BEFORE

ダイニングルームはダークブラウンのテーブルとオープンシェルフで、重厚な雰囲気。そこにメタリックなシャンデリア、グリーンそして、壁にかけられた同色のペインティング作品で洗練された空間を演出している。

AFTER

壁の絵を、イギリスの作家ルーク・ステファソンによる青地の背景と黄色の鳥のコントラストが新鮮な写真作品にチェンジ。クールでスタイリッシュだった空間に、温かみがプラスされた。グラフィカルで色使いも鮮やかな作品で、明るい食卓に。家族の会話も弾みそう。

BEFORE

薄いパーブルや黄色など、ふんわりした色を挿し色にした優しい印象のベッドルーム。デスク周りにはフォトスタンドを置き、壁にはテキスタイルをフレームに入れて飾るなど、全体的にはフェミニンな演出。

© Rain , Yoshinori Mizutani/ courtesy of IMA gallery

AFTER

2面の壁にシリーズ作品をそれぞれかけて、ビフォーとは全く異なるスタイルの部屋に早変わり。白と黒のコントラスト、ヴィヴィッドな傘の色が印象的な水谷吉法の「Rain」を2点対にして飾ることで、部屋が引き締まり、モダンな空間となった。その他はデスク周りに写真集を置き、クッションを変えたのみ。壁の印象で空間自体が全く変わることを実感させられる。