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世界一の時間と出会う ― SUITCASE

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SPAIN


融合したカトリックの

歴史が紡いだスペインの異国情緒

ユーラシア大陸の南西端。地中海とカンタブリア海を結んで横たわるピレネー山脈によってヨーロッパから切り離されたようなイベリア半島。その半島のおよそ85%を占めるスペインで、他の西欧諸国と異なる文化が育まれたのは、こうした地理的要因に依るが、とりわけキリスト教文化とイスラム文化の確執、混在、そして共存という歴史的な背景がある。

711年にイベリア半島に上陸したイスラム・アラブ勢は瞬く間に半島を占領し、フェニキア、ローマに代わって地中海の制海権も掌握した。8~15世紀のイスラム勢力による支配から、レコンキスタと呼ばれるキリスト教勢の巻き返しの後もイスラム文化の香りが色濃く残った。時を同じくしたコロンブスによる新大陸への到達は「陽の沈まない国」と呼ばれるスペインの黄金時代をもたらしたが、これら歴史の主な舞台となったのがアンダルシア地方であり、青い空と輝く太陽、白壁の家並み、フラメンコのリズムに象徴される「情熱の国・スペイン」というイメージを担ってきた。

この地方を東西に貫くグアダルキビール川は流域を肥沃にし、地中海性気候という温暖な気候に恵まれている。大地を黄色に埋めて広がるヒマワリ畑や、銀緑色の葉が丘の斜面にそよぐオリーブの林という穏やかな風景が広がり、白い村々が点在して、鮮やかなコントラストを見せているのがアンダルシアなのである。 しかし、シロッコと呼ばれる地中海対岸のアフリカから吹き寄せる熱風は、暑く乾燥した夏をもたらす。そこで生まれたのが白壁の家やシエスタと呼ぶ昼寝の習慣で、逞しい生活の知恵であり、街が夕方に活気づくという所以でもある。

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春を謳歌するセビーヤの春祭り

グアダルキビール河畔の街セビーヤはアンダルシア最大の都市。ローマ帝国がここに殖民都市を築いたが、712年にイスラム・アラブが占領し、王国の首都として宮殿を構えた。スペインの黄金時代には新大陸との交易を独占する港町となり、東西の物資や文化、人々が集まった。

街の中心は、南に向きを変えて大西洋に向かうグアダルキビール川の東岸に位置し、川辺に建つ「黄金の塔」は、イスラム王国が川の通行を監視するために建てたもので、当時金色のタイルに覆われていたことから呼ばれる。西岸はトリアナと呼ばれ、ヒターノたちが多く住んだ地区で、メリメの小説「カルメン」の舞台となった。セビーヤはオペラ「ドン・ファン」や「セビリャの理髪師」の舞台でもある。

黄金の塔の背後に聳える「ヒラルダの塔」は高さ97m、イスラム寺院の祈祷塔 (ミナレット)を16世紀になって上部に風見(ヒラルダ)が取りつけられ、セビーヤのシンボルとなっている。正方形の塔の内部は緩やかなスロープになっていて、かつては馬で登ったという。

アルカーサルは、イスラムの宮殿をキリスト教のスペイン王たちがムデハル(キリスト教支配下に残ったイスラム教徒)の職人を集めて改築させた王宮で、なかでも「大使の間」はムデハル様式の傑作と言われ、イスラムの香りを色濃く残す。

スペインのなかでも異国情緒の強いセビーヤが最も華やぐのは、スペイン3大祭に数えられるフェリア・デ・アブリル(4月の市)通称「春祭り」である。

会場の通りはイルミネーションで飾られ、1000余りも並んだカセータ(テント小屋)ではワインと踊りのパーティが明け方まで続く。ワインはシェリー、セビヤーナスと呼ばれる踊りはフラメンコ風でポピュラーな踊りである。

女性たちはトラヘ・デ・ヒターナ(裾の長いフラメンコ衣装)で着飾り、男性は裾の短いトラへ・コルトを着て、タイトなパンツとブーツ、つばの平らなコルドバ帽で粋にきめ、馬で会場を練り歩く。祭りの起源は13世紀に始まった家畜市だが、今は祭りの色彩が濃いのである。


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    La Giraldaヒラルダの塔

    ヨーロッパ第3位の規模というゴシック様式の大聖堂に付属するヒラルダの塔は、高さ70mの展望台から市街を一望にできる。

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    Estación de Santa Justaサンタ・フスタ駅

    1992年のセビーヤ万博を契機に、街路や交通機関も整備され、空港や駅も新装され高速鉄道AVEはマドリッドとセビーヤを2時間半で結ぶ。

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    Real Alcázarアルカーサル

    宮殿が複合するアルカーサル。中でもペドロ王の宮殿は乙女のパティオを取り巻いて配置され、精緻な装飾が施された大使の間はとくに美しい。

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    Río Guadalquivir y Torre del Oroグアダルキビール川と黄金の塔

    グアダルキビール川は、地中海を結ぶ輸送路として重要な役割を担ってきた。ライトアップされた河岸の黄金の塔とその背後に聳えるヒラルダの塔。

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    Feria de Abril春祭り

    春祭りの期間中フラメンコショーや闘牛も連日開催され街中が華やぎ、バルもひときわ賑わう。2016年の開催は4月12日~17日(予定)。

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    Carmonaカルモナ

    セビーヤの東の高台にある町カルモナ(下)にはアラブの城砦があり、これをペドロ王が宮殿とし、現在は改装してパラドール(上)となっている。

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    Itálica (Santiponce)イタリカ

    古代ローマ帝国はセビーヤと近郊のイタリカに殖民都市を建設し、5賢帝のうちトラヤヌスとハドリアヌスを輩出した。発掘が進む円形劇場(上)とモザイク(下)。

  • ABOUT SPANISH FOOD

    イベリコジョータ

    兔の腸詰料理

    兔の腸詰料理

    アンダルシアは世界最大のオリーブの産地。オリーブオイルはニンニクと並びスペイン料理の基本といわれる。シンプルな調理で素材を生かすのがアンダルシア料理の特徴で、創作料理が普及しても、伝統料理の確固たる人気は衰えない。夏に好まれる冷たい野菜スープのガスパチョや、茹でたエビ、イワシの塩焼きなど新鮮な魚介の料理が有名で、内陸部では兎、鹿、ウズラなどのジビエ料理も多彩だ。
    セビーヤの西に位置するアラセナ山地は、ハモン(生ハム)それもイベリコ・ベジョータと呼ばれる高級生ハムの有名産地で、中心の村ハブゴは上質な生ハムの代名詞でもある。一方、ヘレス・デ・ラ・フロンテラが産地のワイン、シェリーは独特の製法による世界の3大酒精強化ワインの一つ。愛飲した英国人によってヘレスの英語読みのシェリーという呼称が定着した。メンブリーヨ(マルメロの実の羊羹)などデザートはアラブ由来のものが多い。

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      Jamón Ibéricoイベリコジョータ

      秋から冬にかけドングリ林に放牧されて育ったイベリコ種の豚でつくられ、天然熟成された生ハムはイベリコ・ベジョータと呼ばれる。

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      Venenciaベネンシア

      古シェリーはベネンシアと呼ばれる独特で華麗な技で利酒される。



    菅原千代志:写真家/ライター。北米やイベリア半島を中心に民俗文化などの取材が多く、
    著書に『アーミッシュ』(丸善)『スペイン 美・食の旅』(平凡社)などがある。

    協力: スペイン政府観光局 www.spain.info/ja/