SUITCASE

Home > SUITCASE > vol.9 CHICAGO

世界一の時間と出会う ― SUITCASE

main01

CHICAGO


シカゴといえば、“ジャズ”、“ブルース”、そして建築。「街全体が建築博物館」とも称されるように、個性豊かな建物やアートが街中に建ち並ぶ、建築の街シカゴ。知るほどに歩くほどに惚れ直す、この街の真の魅力に迫ります。

灰の中から蘇った街が放つ恐るべき生命力

main02

“摩天楼発祥の地”シカゴには、癒しの効果がある。大都会の冷たさは微塵もなく、アメリカ中西部独特の朴訥とした田舎の空気が人々を優しく包み込んでくれる。100を超える民族がひとつ通りを隔てながら共存し、伝統と斬新、田舎と都会、猥雑と整然が絶妙に調和する街、それがシカゴだ。

五大湖をわたると東は大西洋へ、イリノイ川をつたってミシシッピ川を南下すればメキシコ湾にまで到達する恵まれた水運を生かし、1800年代初頭のシカゴは、中西部一帯で生産された農作物や畜産品を世界へ運び出す都市として発展をとげた。1850年頃には鉄道網も整備され、産業は一気に花開き“世界で最も急成長を遂げた都市”のひとつに数えられた。

が、その繁栄は1871年の「シカゴ大火」で一転。一軒の牛舎から出た火は瞬く間に燃え広がり、市内の3分の1が一夜にして焼失してしまう。文字通り灰と化したシカゴはしかし、そこから凄まじい復興へと歩み出した。再建のために空前の建築ラッシュが始まり、世界中から一流の建築家がシカゴに集結。彼らは「シカゴ派」と呼ばれ、耐火に優れた近代都市建築の基礎を根付かせた。折しも、鉄鋼構造やエレベーターの本格導入が、低層だった建物の高層化を推し進め、空気と光をうまく取り込むための独特の「シカゴ様式建築」を生み出した。こうして廃墟の中から天空に向かって伸びる新しいビル群が、あたかも厳しい冬を耐え忍んだ木々のごとく次々に芽吹いていったのだった。

「もしあの大火がなければ今のシカゴはなかっただろうか?」シカゴの人たちは時にこんな冗談を言うが、最後は必ずこう落ち着く。「どんな道程を経ていたとしても、シカゴの建築文化は間違いなく花開き、今の姿にたどりついたに違いない」と。

ふたりの巨匠がシカゴに残した傑作

main03

シカゴ大火から22年後の1893年、シカゴは万国博覧会を開催し、その復興ぶりを世界に見せつけた。当時開国40年の節目を迎えていた日本は、この万博に「宇治平等院」を模した展示館「鳳凰殿」を出展したのだが、この木造の建築様式に大いに影響を受け、後に「旧帝国ホテル」の設計を手掛けることになったのが、かの20世紀の三大建築巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライトだった。彼はシカゴ近郊の街、オークパークに住まいを構え、ここで多くの一般住宅をデザインしたほか、シカゴ南部ハイドパーク地区にある「ロビー邸」(1910年)や、“近代摩天楼建築の原本”といわれる「ルッカリー・ビル」(1888年)のロビー改装(1907年)も手掛けた。

ロイドとほぼ同時期にシカゴで多くの名建築を残したのが、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエだ。ドイツ・バウハウスの流れを汲むミースは「Less is More(より少ないことは、より豊かなこと)」を掲げ、柱と梁で支えられたシンプルな大空間やガラスカーテンウォールを大胆に設計に取り入れ、“モダニズム建築の祖”とも呼ばれた。自然との調和を図り日本人がほっとする和のテイストを取り入れたライト、都市空間にふさわしい大胆でシンプルな作風のミース。どちらもシカゴになくてはならない存在であり、彼らなくして現在のシカゴ建築は語れない。シカゴがほぼ同時期に彼らを呼び寄せたのは、歴史の必然だったのかもしれない。

main04

シカゴの冬は厳しく、春になるとシカゴアンたちは一斉に外に飛び出し街を謳歌する。そこで真っ先に目にするのは、青い空と碧い湖、そして空に向かって立つ颯爽たる建築物の姿だ。人々にとってこれらは常にひとつのパッケージになっている。建築はただのビルディングはなく、シカゴの復興のシンボルであり未来そのものなのだ。

市の中心にあるミレニアム・パークでは、5月に入ると毎日のように無料の野外音楽イベントが開かれ市民が集う。実は、この公園の下にはシカゴ大火のあとの灰や瓦礫が埋められているという。芝に寝ころがって新旧居並ぶ建物たちを眺めながらシカゴの歴史の声を聞き、好きな音楽を堪能するひとときは、シカゴアンにとってなによりの癒しの時間なのだ。


map
  • photo01
    icon_num01 CHICAGO RIVER ( ARCHITECTURE CRUISE )シカゴ川建築クルーズ

    シカゴ市内を流れるシカゴ川支流に沿って周囲の50以上の建造物を見学する「建築リバークルーズ」は、観光客に一番の人気。4月から11月まで毎日行われている。

  • photo02
    icon_num02 MARINA CITYマリーナ・シティー

    トウモロコシ形の双子のビルは、下層が駐車場、上層がオフィスとアパートになっている。設計は、バートランド・ゴールドバーグ。1967年築。

  • photo03
    icon_num03 LINCOLN PARKリンカーン・パーク

    ミシガン湖沿いに広がる自然との共生を謳ったシカゴ最大の公共公園。動物園、博物館、ビーチなどが揃う。遊歩道内の木製オブジェのなだらかな曲線が微妙な光と影を映し出す。

  • photo04
    icon_num04 UNTITLED BY PABRO PICASSOピカソ(無題)

    シカゴでは高層ビルを建築する際には公共スペース内に野外アートを置くように決められている。市庁舎横の彫像は、ピカソがシカゴ市に贈ったもの。

  • photo05
    icon_num05 CROWN FOUNTAINクラウンファウンテン

    ミレニアム・パーク内にある名物の噴水。高さ15mのタワーに様々な人種の人の顔が映し出される。バルセロナの美術家、ハウメ・プレンサ作。

  • photo06
    icon_num06 THE ROOKERYルッカリー・ビルディング

    1888年築。シカゴ大火後に建てられた世界最古の鉄骨建築。1907年の改装でフランク・ロイドがロビーの改装を手掛けた。設計はダニエル・バーナム。

  • photo07
    icon_num07 WATER TOWERウォータータワー

    1869年築。全米で2番目に古い給水塔であり、シカゴ大火で唯一消失を免れた公共の建造物でシカゴのシンボル。ゴシック調の外観と周囲の超高層ビルとの対比が妙味を感じさせる。

  • photo08
    icon_num08 FARNSWORTH HOUSEファンズワース邸

    1951年築。ミース・ファン・デル・ローエの代表作のひとつ。シカゴ郊外の森の中にひっそりと佇む一軒家で、四方がガラスの壁で囲まれた大胆な空間設計は、彼が追求したモダニズム建築の結晶であり、その後の高層建築の礎になった。

    14520 River Road Plano, IL 60545 TEL 630 (552) 0052
    www.farnsworthhouse.org

  • photo09
    icon_num09 CHICAGO THEATREシカゴ劇場

    1921年に映画館としてオープン。取り壊しの危機にあったが1986年に大改装、フランク・シナトラのショーで劇場として息を吹き返した。

  • photo10
    icon_num10 CLOUD GATEクラウド・ゲイト

    通称「ビーン」。高さ10m、幅20mのステンレススチール製で、英国の芸術家アニシ・カプーアの作。この中に映し出されるビル群が美しい。

  • photo11
    icon_num11 MILLENNIUM PARK ( JAY PRITZKER PAVILION )ミレニアム・パーク

    ダウンタウンのミシガン湖沿いに南北に広がる巨大公園「グラント・パーク」の北の一角に設けられた公園。夏にはここでほぼ毎日無料でイベントが行われる。

    photograph - (2),(5),(8) : Chicago Architecture Foundation
    (1),(3),(9),(10),(11) : Adam Alexander Photography
    (4),(6),(7) : City of Chicago