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第6回
「中古マンション」の相場はどのように決まっているのか

マンションの累積供給戸数が600万戸を超えたのは2013年のこと。ストックが豊富になったことから、中古不動産の需要が増加し、2016年からは取引件数で新築物件とほぼ同数になりました。最近の中古不動産の流通事情と価格の決まり方について見てみましょう。

中古住宅への心理的な壁は低くなっている

売買しやすい流通性の高さがマンションの優れた点の1つです。新築志向が強かった日本でも、マンションストックの増加もあって、中古の人気が年々高まっています。

不動産仲介の現場からも、「近年は、住宅を購入する人が中古物件にネガティブなイメージを持つことはまったくない」という声が聞こえてきます。それはなぜでしょう。

古くても「リフォームやリノベーションをすればよい」という人が増えたことがまずその理由として挙げられます。「リビングだけは自分でこうしたい」という“一点豪華主義”的なこだわりを持つ人も、中古の方がその思いを実現しやすいのかもしれません。

あるいは「旧耐震基準の物件でなければ、構造的には大丈夫」という認識が広がり、おおむね築35年以内の物件なら新耐震基準で安心という捉えられ方なのでしょう。

中古住宅の流通を促進するため、国土交通省はさまざまな制度を設けてきました。
中でも、安心して購入できるという品質保証的な観点からの施策が目立ちます。その1つが、2018年度から流通が始まった「安心R住宅」でしょう。この制度自体に即効性があるわけではないため、その効果のほどは不明ですが、中古購入にあたっての心理的な壁を崩す役割を果たしていくことでしょう。

以前は拒否する売主が多かったのですが、最近では大手を中心に「買主自身が住宅診断(ホームインスペクション)することを拒否しない」旨、告知する動きが出てきています。

費用的には数万円からせいぜい10数万円程度なので、買う側の心構えとしては、欠陥が見つかったときへの備えとして、ホームインスペクションと瑕疵担保保険への加入がお勧めできます。

選択の基準は「立地」ありき

最近の傾向として、新築以上に目立つのが立地へのこだわりです。新築物件は駅前再開発でもなければ立ちませんが、中古ならば駅近くにもさまざまな築年の物件が見られます。こうした「場所ありき」での家選びが顕著になってきています。特定の駅で、予算5000万円ならどのような物件があるのか。その際には「新築マンション」「中古マンション」「戸建て建売り」が並列で比較されることになります。

「このアドレス/立地で、この予算で、どんな物件があるか」が新たな選択基準なのです。
その背景には、人気のあるアドレス、人気の駅近の立地では、新築と中古の価格差があまりなくなってきているという現実があります。

人気の街ランキングで常に上位にあるJR山手線「恵比寿」駅からの徒歩圏内で見ると、徒歩10分の新築でも、徒歩5分の築20年超の中古でも、坪単価で500万円強というのが相場となっています。

郊外物件では以前よく言われていたことですが、ファミリータイプのマンションの場合、年に100万円ずつ分譲価格より中古の相場は落ちていくと。10年経てば1000万円安くなる、というものです。

ところが、先の恵比寿でいうと、ランドマーク的な物件である恵比寿ガーデンプレイスにある分譲マンションは、築20年を超えても分譲時の価格とほぼ同等で取引されています。値崩れしにくい都心部では、中古の価値が相対的に上がっているといえそうです。

築の場合は購入即入居が可能ですが、築10年も超えるようになると、なんらかのリフォームの必要が出てきます。そうした費用を加えた総予算で比較すると、立地によっては、同じ価格帯で建売り住宅も出ていたりします。中古マンションにとっては競合相手ということになります。

「自分で変更ができない要素」が価格を決める

マンションの価格決定要因としては、立地(駅自体の利便性、駅からの距離、住環境)、築年数、規模(1棟の住戸数)・形状(タワーか板状か)、間取り、生活利便性などがあります。その優先順位とウエイトが、近年大きく変わってきているようです。

最優先となるのは、これまで見てきた通り「立地」ですが、その重みが増しており、10年、15年程度の築年数の差では取引価格があまり変わらなくなっています。築年で差が出るのは、旧耐震か新耐震かという耐震基準の違いくらいというニュアンスです。

好立地に新築の供給が少ないことや、新築も中古も値段が高止まりしていることもあり、以前ほど新築物件の価格が中古の価格には影響を与えていない状況に、とりわけ都心部ではなっているようです。

また、戸あたりで100万円前後からそれ以上の負担となる大規模修繕が終わった直後の売り出し物件は、見た目の印象がよくなるので、少し強気の値段がつくかもしれません。

毎月の負担となる修繕積立金や管理費が高い物件は不人気な傾向にあるので、物件価格を下げざるを得ない場合もあるといいます。では、こうした負担が小さければいいのかといえば、不足分を一時金で徴収されるなど、あとでたいへんな事態も起きかねないので、一概には言えません。

結論として言えることは、「間取り」など後からある程度「自分で変更ができる要素」は、もはや価格を決める要素にはなりません。

むしろ重要な要因は、「立地」(特に駅からの距離)、「利便性」(買い物など)、「生活環境」(特に駅前の雰囲気、眺望や街の空気)といった場所の希少性にあります。こうした「自分で変更ができない要素」が、中古価格を決める要因のウエイトの大半を占めるようになってきている点に注意が必要と思われます。

監修/藤木賀子(スタイル・オブ東京代表取締役)
イラスト/大和涼子 グラフ作成/小川あゆみ
ダイヤモンド・セレクト編集部(ダイヤモンド社)