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第13回
人気小学校に通える住まいの選択基準

マンションの資産価値は「駅からの立地」で決まるといわれる昨今ですが、その他にも価値を測る基準はないものでしょうか。「就学前の子どもを持つ夫婦の中には、伝統ある人気公立小学校の学区に絞って物件探しをする人たちがいる」という話を聞いたのは、ちょうどそう思っていた矢先のこと。というわけで、そんな小学校のある街の様子を見に行くことにしました。

日本一地価の高い「銀座」の小学校区では……

「伝統のある人気公立小学校」で最初に思い浮かんだのは、アルマーニの制服を採用したことでも話題になった東京・中央区の「泰明小学校」でした。東京メトロ「銀座」駅、東京メトロ・JR「有楽町」駅から5分ほどの場所にある同校の周辺は商業ビルばかり。少し歩いてみても住宅らしきものはまったく見当たりません。

そこで、1905(明治38)年から銀座界隈の不動産をあっせんする小寺商店の児玉裕社長に周辺の住宅事情を聞いてみることにしました。いわく、「子どもを特定の小学校に入れるために、その学区に絞って住宅を探す人はまずいない」とのことです。

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「そもそも日本一地価の高い銀座周辺では、3LDKなどのファミリータイプマンションは希少です。昭和30年代後半から40年代にかけての高度成長期に銀座一帯に商業ビル化の波が押し寄せ、多くの人が家を手放して域外に出ました。その後、バブル期のビル建設ブームでさらに多くの人が銀座を離れました。地元で4代続いている家はかなり減っている印象です」(児玉社長)

現在、泰明小学校には、そんな時代の変化の中でも学区内に代々続く家に住む子ども、そして、特認校制度(希望者が学区に関係なく居住する自治体指定の特認校に就学できる制度)を利用して中央区内の他の学区から通う子どもがいます。東京23区内には、小学校にこのような学校選択制を導入する区が、中央区を含めて12あります(2019年度)。

「中央区でファミリー向けマンションが供給されている場所といえば築地方面、もしくは月島や勝どきといった湾岸エリアです。銀座地区出身者以外で、子どもを泰明小学校に入れたいという親御さんは、こうした場所に住んで特認校制度を利用するのが現実的なのでしょう」と、児玉社長は話します。

文京区の人気小学区は周辺相場の20%増し

では、小学校に学校選択制がない区の事情はどうでしょうか。今度は、東京大、お茶の水女子大をはじめとする大学や、都立小石川、桜蔭、筑波大学附属などの中高一貫校、3つの国立小学校といったようなたくさんの有名校がある文京区を訪ねてみました。

文京区には20の公立(区立)小学校がありますが、同区内の不動産屋さんの看板には、「3S1K学区物件」という文言が躍ります。3S1Kとは、「誠之(せいし)」「千駄木」「昭和」「窪町」の各区立小学校の頭文字を並べた呼称で、いずれも長い歴史を誇る小学校です。

その中の一つ、誠之小学校付近の西片地区を歩いてみると、そこには戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街が開け、マンションはなかなか見当たりません。他の学区はどうでしょうか。同区白山の不動産会社でマーケティングを担当し、文京区の教育・生活情報ブログ「文京ライフ」を運営する春日さん(ハンドルネーム)に聞いてみました。

春日さんによれば、特に人気のある小学校区は誠之・窪町であり、文京区には小学校に学校選択制がないため、この2学区の物件価格は隣接学区の20%増しになるということです。誠之小学校区についていえば、坂が多く、大規模商業施設も少ないという生活環境に少々目をつぶってでも、学区重視で移り住む人がこの10年、とりわけソーシャル・メディアが普及し情報が拡散するようになったここ5年で特に増えてきたといいます。

●文京ライフ https://bunkyo-life.com/

誰がどこに価値を見出して買うのか

では、「人気の小学校区」という基準で物件を求めるのはどのような人たちなのでしょうか。

春日さんの顧客の場合、誠之小学校区では、「夫婦共働きで就学前の子どもがいる世帯年収1500万円前後のニューリッチ層」というのが典型的なイメージとのことです。一方、東京メトロ「茗荷谷」駅があり、商業施設も多い窪町小学校区を希望する顧客は、年収1500万円以上で共働き世帯が少ないのが特徴だそうです。

両学区で購買層が異なるのは、春日さんの扱う70㎡・3LDKの物件価格の目安が、誠之小学校区では8000万~9000万円であるのに対し、窪町小学校区では1億円前後であるという価格差に起因するようです。しかし、いくら1億円を切るといっても相当高い買い物であることに相違ありません。仮に8000万円を35年ローンで借り入れた場合、毎月の住居費は、返済額と管理費、税や保険まで含めると、少なくとも20万~25万円程度にはなるでしょう。

それだけ高いコストを払ってでも子どもを教育環境の良い街に住まわせたいという人が増えているのは事実のようで、春日さんは、「人気小学校区の子育て世帯は、区外からの転入者が半分以上を占めるのでは」と感じているそうです。

その一方で、「特に誠之小学校区を希望する方は、教育環境に加えて再販時の資産価値を重視して物件を選ぶ傾向がある」と言います。今は8000万~9000万円が相場だという70㎡・3LDKの物件も、10年ほど前までは7000万円台だったそうですが、これだけ価格が上がっても、誠之小学校区での購入希望者は春日さんの働く不動産会社だけでも50人以上はいるといいます。

たしかに、子育て後、再販はもちろん、賃貸に出しても収益力が見込めるが故の人気なのでしょう。

「再販する際のリスク緩和のために、多少背伸びをしてでも将来にわたって資産価値を維持しやすい人気学区の物件を買っておこうというお客さまが多いのです」(春日さん)

なお、公立小学校の学区の範囲や学校選択制の内容は変更されることもありますので、自治体に問い合わせるなど、必ず事前に確認を取っておきましょう。

イラスト/大和涼子
ダイヤモンド・セレクト編集部(ダイヤモンド社)